「テレジンの音楽」を読んで

2012/08 : 志村 泉
「テレジーンの音楽」 (山本耀郎訳) 

テレジンの音楽活動の素晴らしさが語られるとき、その活動を支えた人々の多くがナチスによって命を絶たれなければならなかったという事実に、私たちは無意識のうちに引っ張られてしまうのではないでしょうか。
確かに非常に過酷な状況の中でのことであったことは、事実です。けれどもヨジャ・カラスさんのこの本を読むと、彼ら音楽家たちは決して運命に負けたのでは なかったということが分かるのです。ナチスの非人道的な策略によるものであったとしても、外界からは隔離されたテレジンの収容所に、あり得ないほど多くの 優れた音楽家たちが集まり、楽器の不備や強制労働の重荷や、劣悪な生活環境の中で、地位や名誉や名声を得ることなどからはまったく離れ、「音楽」そのもの の探求に没頭し、成長し、工夫し、「音楽」が人々に、そして自分自身に喜び与えることを全身で感じとっていた・・・、そのこと自体が、奇跡のような出来事 だったと思うのです。
行われた膨大な数のコンサートのプログラム、作曲家たちによって残された数々の優れた作品、コンサートに寄せられたあたたかくも鋭い批評の数々や、生存者 たちの証言。その中から見えてくるものは、音楽家としての並はずれた力量や音楽に対する真摯な態度、そして共により良く生きようとする、どこまでも向上し ていこうとする、希望を持ち続けようとするエネルギー。すべて今、音楽とともに生きようとする私たちにも、その原点を示してくれているように感じられま す。
今回この本が訳され、テレジンの音楽活動の事実だけでなく、チェコのユダヤ人たちの歴史的な背景や、生存者の方たちの信じがたい経験、また戦後の様子など を知ることができます。戦後大活躍された生存者のエディット・クラウスさんやヘレナ・ヘルマノーヴァさんに、実際にお目にかかることができた私にとっては もちろんですが、多くの方にとって、この本は興味深い一冊となると信じます。

                     志村 泉

本書を希望の方は、「テレジンのピアノの会」(03-3356-5713・ムジカ音楽・教育・文化研究所内)までお問い合わせください。