「バッハをめぐって」によせて

2000/11/05 : 志村 泉
志村泉ピアノリサイタル~バッハをめぐって~

私はこの5月に、874人の日本人からチェコのテレジーン市に贈られたピアノのオープニング・コンサートという大役も無事果たすことができ、ご協力く ださった方々に心から感謝しつつ、今後も、テレジーンの芸術の復興に微力ながら力を尽くしてまいりたいと思っております。

また今年はJ.S.バッハの没後250年にあたり、だいぶ以前よりこの2000年には、バッハとまた関連した様々な魅力的な作品をならべたリサイタルをしたいとプログラムを考えておりました。

テレジーンの強制収容所で活躍した代表的な作曲家の一人、ヴィクトール・ウルマンがアウシュヴィッツへ送られ、ガス室で命を絶つ直前に書き残した最後 のピアノ・ソナタの終楽章にはBACH(シラドシ)という音型が埋め込まれ、図らずもバッハへの思いを込めた作品をまたひとつ発見することになりました。

バッハを敬愛したブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスは「バッハはあらゆる民族をつなぐきずなとして生きる」と語り、ブラジルの魂を表現し続けた作曲活動の中で、まさに彼自身の心の「ブラジル」と「バッハ」を融合させた「ブラジル風バッハ」のシリーズを残しました。

20世紀最大の作曲家とも言われるショスタコーヴィチは、今から50年前のバッハ没後200年の年に、「音楽家の旧約聖書」とも呼ばれるバッハの平均 律クラヴィーア曲集にならい、「24のプレリュードとフーガ」を作曲しました。几帳面なほどバッハのスタイルで書かれながら、驚くほどショスタコーヴィチ の音楽になっているこの不思議な魅力を持つ作品に興味を持って、5、6年前から少しずつ演奏して来ましたが、今回はバッハとショスタコーヴィチを交互に演 奏するという形で聴いていただきます。

あまりにも深く大きいバッハの世界ではありますが、私なりにひとつのはっきりとした切り口で、バッハの偉大さと時代を超えた魅力を改めて感じていただけるプログラムになったと思います。

2000年9月 志村 泉