桑原 浜子 卵殻モザイク展へのお誘い

2000/11 : 志村 泉
桑原浜子の世界展

私の祖母の妹、つまり私の大叔母に当たる桑原浜子さんは、 今年88才になる素敵な女性です。少女時代から70年間、卵殻モザイクの制作を続け、今までの作品は約6千点。山梨県の自然の中で、風景や草花を感じたま まに、色を付けた卵の殻を指先で割り、下絵も無しに木板や陶器に貼り、描き出して行きます。見慣れた花や風景が、彼女の心と魔法の指先を通って表現される と、私達には聴こえなかった自然の声が聴こえてくるような気がします。

少し離れて見ると、風に揺れ香りを放ち、思わず手を伸ばして手折りたくなるような花達が、近寄って見るとどこまでが作者の意思だったのか、卵の殻が割れて偶然できたようにさえ見える形と、微妙な色の変化の重なりなのです。

私から見れば正真正銘の芸術家である大叔母は、その作品と同じようにまったく自然に生きていて、何の力みもないようです。こどもの頃遊びに行くとゆで たとうもろこしを井戸端で冷やしてくれたり、ほおずきの実の鳴らし方を教えてくれたり、軒に下がる大きなつららを折って持たせてくれたりして、東京育ちの 私を喜ばせてくれましたが、やはり、一人で黙々と卵の殻に色を塗っていた姿が忘れられません。

けれども身近にたくさんあった大叔母の作品の素晴らしさを私が意識するようになったのはずっと後のことでしたし、「山梨・平和を語る会」を主催し、エネルギッシュに平和活動を展開する活動家としての仕事を知ったのはもっと後でした。

昨年の春、最新作「桜」を見た時、年とともに枯れるどころか、湧き出るように表現された”春”に心底驚いた私は、東京で展覧会をするべきだと思いました。ロサンゼルスでの個展が絶賛されたのに、まだ東京で個展をしたことがないのですから。

晩秋の東京・お茶の水の一角に、「桑原浜子の世界」を是非、見にいらしてください。

志村 泉

*「桑原浜子の世界展」
柳沢久子
ギャラリー間瀬  TEL:03-3233-0204