2年ぶり21回目となる志村泉ピアノコンサート <武蔵野シリーズ > ( 10月24日、東京・武蔵野スイングホール)は、新鮮な発見にあふれたコンサー卜だった。
前半ではチェコの作曲家ヨゼフ・スークの作品が3曲演奏されたが、志村泉は1曲目の「幻想ポロネーズ」を弾き終えると、この作曲家と作品について簡潔に語りはじめた。
ドヴォルジャークの愛弟子として知られるスークは、この曲を18歳のときに作曲し、2曲目の「愛の歌」はその翌年に恩師の愛娘オティリエに捧げた作品。ふたりは結婚するが、1904年に恩師が亡くなると、その翌年に心臓を患っていたオティリエは 27歳で世を去る。
3曲目に演奏された「母について」作品28は、愛息ヨゼフに優しく語りかける作品。特に第3曲「夜、病気の子に歌いかける母」や第4曲「母の心臓」、第5曲「思い出」など、深々とした慈愛にあふれた音楽が演奏から切々と伝わってきた。
スークの孫は日本でもヴァイオリニストとして有名だが、 作曲家として活躍した祖父の作品がエピソードとともに演奏されたことで、味わい深いコンサー卜となった。
後半では、ブラームスの「ワルツ集」作品39より11曲が演奏されたあと、ヴイオラ奏者の小野富士をゲストに迎えてブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番へ短調が演奏された。
小野富士は、ヴィオラという楽器の特性、いま使っている楽器の特徴、さらにヴィオラのために作曲された作品がいかに少ないかについて語った。そして実際に彼の演奏を聴くと、ヴィオラの深く渋い音色が素晴らしく、最晩年のブラームスが語りかける豊かな響きの音楽をたっぷりと味わうことができた。3つ目の発見は、このホールに今年4月に導入されたイタリア製の新しいピアノの明るく豊かな響きの素晴らしさだった。客席数180の小さなホールだが、この新しいピアノが加わったことで、志村泉の演奏と語りが一段と魅力を増したことが実感されたコンサートだった。