1997年8月20日、初めて歩く美しいプラハの町。翌日のコンサートのリハーサルのために、ノスティッツ・パレスのコンサートホールへ向かう。
チェロのロイダさんとヴァイオリンのパズデラさんが待っていてくださった。
その日の2時間半のリハーサル、翌日の朝のリハーサル、そして夜のコンサート、コンサート後の軽い食事。パズデラさんと過ごした時間はそれだけだった。にもかかわらず、彼の音楽との出会いは私にとってあまりにも強烈だった。
どちらかと言えば物静かなパズデラさんがひとたびヴァイオリンを手にすると、一瞬一瞬にすべてをかけた音の世界に引き込まれる。その音に込められたものの強さが、”ヨーロッパの伝統の深さ”なのか ”彼の強烈な個性”なのか、私にはわからない。
ただ、私が20年間弾き続けて来た林光さんの作品をチェコの演奏家であるパズテラさんが、見知らぬ国の作品としてではなく、彼の持つすべてをかけて彼自身 の音楽として演奏してくれたとき、一緒に弾いていた私は、自分の創ってきた音楽の世界が一瞬にしてもうひとまわり大きくなり、その世界に思う存分飛び込ん でいけたような気がした。やっぱり”感じ合う力”を信じていいのだと思った。だからドヴォジャークの「ドゥームキイ」も、私にとって他の国の音楽ではな く”私の音楽”になった。
そんな出会いのできたパズデラさんは私にとってもちろん、最高に魅力的な共演者であるけれども、また聴き手としてももっと彼の魅力を知りたいと思う。今 回彼が最も得意とするレパートリーのひとつ、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを聴けることも、そして彼の仲間である若いチェリスト、コチさんとの 新しい共演もほんとうに楽しみだ。
それにしても無謀とも思えるプラハのコンサートの企画から、こんな素晴らしい出会いが生まれ、また数ヶ月後に東京でこんなコンサートが実現するなんてほんとうに信じられない。
志村 泉(演奏会プログラムより)