こうしてピアニストの志村泉さんと演奏できることは、私の生涯でも最も幸福な瞬間に値します。と同時に、私たちの人生が、人間の理解の範囲を超えた何らかの知力によって導かれているという証拠でもあるような気がします。
志村さんと初めて共演したのは、ちょうど10年前のプラハのことでした。
私があるエージェンシーの方から、林光氏の作品をコンサートで一緒に弾いてもらえないか、とたずねられたのがきっかけです。暑かった夏の8月、初めて志村 さんとお会いし、林光氏の<ラプソディー>を一緒に試した時のことを今でも正確に覚えています。初めてというのに、二人とも夢中で全曲を一気に弾いてしま いました。この時、偶然とは言うものの、この出会いはこの時だけで終わってしまってはいけない、と志村さんも私と同じように感じていたのではないかと思い ます。
ちょうどそのころ、私はSolisti di Pragaという室内楽団と共に来日する予定がありましたが、この来日の機会を利用し、記録的な短時間で東京の牛込たんすホールで志村さんとのコンサート が実現するという幸運を得たのです。この時には、チェリストのヴラダン・コチーも共演しました。このコンサートが私たちのその後の演奏活動の決定的な 動機になったと思います。
それ以来、お互いに地球の反対側に暮らしているにもかかわらず、実現したコンサートの数は少なくありません。プラハのマルチヌー・ホールやベルリンでのリ サイタルなどが思い出されますが、モラヴィア地方の小さな町々での心温まる聴衆も忘れることができません。志村泉さんが、小さな町の質の悪いピアノを忍ん で下さった勇敢な姿勢も思い起こされます。
でも、私にとって何と言っても一番の感動的な体験は、日本でのコンサートでした。あの私たちのベートーベン、ヤナーチェック、スメタナ、マルチヌー、ハヤシ、モーツアルト、、、。私たちのコンサートの伝統が、2007年のこの秋に再び実現されることを心底嬉しく思います。
2007年4月 インジフ・パズデラ氏 (チェコ語翻訳:島津俊子さん)